東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9580号・昭37年(ワ)2941号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は昭和三三年一二月六日被告金庫と定期積立金契約をしていたが、昭和三四年九月二〇日原告不知の間に右契約に基づく原告の被告にたいする預金債権が訴多清田正定に譲渡せられ、その預金者名義が右訴外人になつている。しかし右清田は当時原告の理事であつたから、原告からその理事である訴外清田に右預金債権を譲り渡すことは利害相反行為で無効であると主張した。
判決は理事個人名義書替においても当がい預金が実質上法人のために使用せられている事実を認定した上、かような場合には形式的な預金名義の変更があるに過ぎないからなんら利益相反行為にならないとしてつぎのとおり説明している。曰く。
「1、原被告間に原告主張の定期積金契約がなされその契約に基づいてその積金がなされ(誰が出金したかは別として)、原告主張のとおりその債権の名義人が訴外清田正定に変更されたこと及びその名義変更当時訴外清田が原告の理事であつたことは全当事者間に争がない。2、右名義変更は右訴外人が権限なくしてすでに退任後の訴外荒川質の原告代表名義を冒用してなした無効の譲渡行為であり、そうでなくとも右清田は原告の理事であつたから、理事として原告から右債権の譲渡を受けるのは利益相反行為として無効のものであると主張する。
そこで右原告主張の譲渡についてみるのに、証人島内良治、五十嵐定夫の各証言によつて右名義変更手続に用いられた被告への届出書と認められる……を綜合すれば、右定期積金契約はもともと参加人のすすめによつて、原告がその振出手形を被告金庫において割引を受けるためその担保にするためになされたものであり、同時にそれは右割引に当つて裏書人として一種の保証責任を負う立場にあつた参加人の損害をも保障する便益にも役立つていたものであること、原告は昭和三三年頃から業務が思わしくなく、その経済的立直りを期して訴外荒川質及び訴外清田正定が昭和三二年一一月以来常務理事となつて経理及び日常業務の執行に当り、参加人の協力を求め、その立直りのための経営方針の一環として右手形振出手形割引及び定期積金契約をしたものであること、その後原告主張の頃訴外荒川質が原告の理事を退任するに当つて訴外清田が引き続き右経理事務等の執行一切を担当し、それに伴つて右定期積金債権の名義人を同訴外人の判断で同清田個人名義に変更したが、なお依然として同積金債権を前記手形割引のために担保に供しており、かつ遅くとも昭和三五年三月積金の分までは原告から積金をして来たこと、ところが、いよいよ原告の業務は不振となり資金不足となつて右債権を続け得なくなつたもので、参加人が前記のとおり原告の振出手形に裏書人として責任を負い、これを被告金庫において割引を受けていた関係上、止むなく参加人において右債権を続けたこと等が認められ、これに反する証拠もない。右認定の諸事実からすれば、なる程訴外清田個人の右債権名義人変更は同訴外人の独断行為のようであり、その名義人変更は権利の譲渡のような外観を呈するが、その実質は依然として原告の権利にあり、原告の利益のために利用されていたものであつて、何ら実質的な権利変動はなく、被告及び参加人主張のように単なる原告代表者名義の変更手続とみ得るか否かには疑問なしとしないが、少なくとも信託的な譲渡形式以上のものでなく、原告の業務運営上の一手段に過ぎないというべきである。したがつて、単にその名義変更の形式のみをとらえ無権原行為または利益相反行為というのは当らず、右訴外清田の名義であつたからといつて、右積金債権が原告の権利でなくなつたとはいえない。」